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二
緋月が目を覚ますと、障子から朝日が差し込んできた。その眩しさに何度か目を瞬かせたあと、彼は上半身を起こす。
妙に生々しい夢を見たせいか、まだ夢の縁にいるような不思議な気分だ。
しばらく緋月は両の手を見つめ、握ったり開いたりを繰り返した。そして自分の感覚が、これは現実だと認識する。つまり先ほど見た光景は夢だった。そのことに安堵の息を漏らす。
彼は自分がどのようにして布団に寝かされたのか、そこまで頭は回っていなかった。ただ、偶然悪夢を見たのだと考えていた。
突然、障子とは反対側にある襖が勢いよく開けられた。
「朝ですよ──……!」
目を見開いて、驚きの表情で緋月を見るのは、黒髪を高い位置で一つ結びにした少年だった。
緋月と同じ年だと思われる顔立ちからは、幼さと共にどこか真面目そうな、誠実さが窺えた。
緋月は、自分を見た途端に固まってしまった少年の視線がどこにあるのか考え──気がついた。
(髪の毛か)
『人間で緋色の髪を持つものは少ない』と緋那と住んでいた屋敷で、妖怪から何度も繰り返し聞かされていた。
璃狼や梨桜は髪や瞳の色に関して、特に嫌悪感のようなものは抱いていない様子であった。が、そういう人間が珍しいことも教わっていた。
『外』の世界で生きるために、ある程度は容姿のことで嫌われる覚悟はしていたが……。
(珍しがっているのか、はたまた怖がっているのか……どっちかな?)
真意を探ろうと黒髪の少年を見つめていると、彼は緋月の視線に気づいたようだ。少年は唇を尖らせた。
「む。なんです、すでに起きていたのですか」
「え? あ、うん。えっと……おはよう、ございます?」
予想外の態度に驚いて、何故か敬語になってしまった。対する少年は、感動の意を瞳に宿している。
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