1人が本棚に入れています
本棚に追加
「……! 朝の挨拶をするなんて、礼儀正しいですね! おはようございます!」
ニッコリと笑顔付きで言われれば、容姿に関して何かを言われるだろう、とやや緊張していた緋月は疑問に思った。
(……? なんか普通の態度だな)
もっと別の反応をすると思っていた。
(化物扱いとか、逃げるとかを予想していたのに)
しかし嫌われるよりはいい。そう、楽観的に考えておく。
「璃狼先生に言われて起こしに来たのですが、その様子なら二度寝はしないですね。私と一緒に、広間へ行きましょう!」
「うん」
「あ、その前に。どこか具合の悪い場所はないですか?」
少年は静かに部屋の中に入り、緋月の額に手を伸ばす。緋月は目を閉じた。温かい熱が伝わってくる。
「熱はないですね。でも体温が低いです……手足は動きますか?」
少年の手が離れる。緋月もゆっくりと目を開けた。
「……。うん、大丈夫。動くよ」
「それならいいのですが、何かあったら体を温めて下さいね」
「わかった。ありがとう」
緋月は布団から出ると素早くたたみ、押し入れの中に片付けた。
少年とともに寒い廊下へ出る。黒髪の少年は怪訝そうな顔で緋月の上から下まで見つめてきた。
「着替えなくていいのですか?」
緋月は今の自分の着物に目を向けた。
季節柄、身を清めることが出来なかったため、服は寝床として使った石や洞穴の土の汚れが乾いており、においもあまりよくない。第三者の目から見ると、彼の姿は不潔だろう。
「着替えたほうがいいと思う?」
相手の答えは分かっていたが、緋月は尋ねてみた。
「一応、広間には人が沢山集まりますから。そのほうがいいと思います」
「……でも、着替えを持っていないんだ」
「ああ、昨日ここに来たんですよね。では私の着物を貸しましょう」
「いいの?」
「はい。でもその前に身を清めたほうがいいですね。朝餉にはまだ早いことですし、湯殿(風呂場)に行きましょう」
「ありがとう」
いいのです、と笑う彼に、緋月も笑い返す。
最初のコメントを投稿しよう!