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夕日で子供たちの緋色の髪の色が深みを増す中、ススキが静かに揺れていた。
リンリンと鈴虫たちが自分の歌を熱唱している。高い音のそれは、他の動物の鳴き声さえ届かないほど、大きく響いていた。
……ここは異界。妖怪たちが生活し、心身を休める偽りの美しい世界。季節は一定で、気温も変わることがない。誰にとっても住みやすいところ。
その世界の大きな屋敷の近くには、二人の子供が向き合っていた。二人の髪がさらさらと音をたてて風に揺れる。
「今度会うときまで、離れることになるけど……元気でいてね」
そう言ったのは、緋色の髪を肩で切りそろえた少年――緋月だった。
髪を伸ばしたら、少女と見紛う中性的な顔立ち。まだ発達しきっていない体つきは、彼を幼く見せるには十分であり、髪と同じ色の瞳は、一つの意思によって輝いていた。
「次に会うことなんてあるの……?」
長い緋色の髪を一つに結い上げた少女が戸惑ったような表情をする。
少女の名は、緋那。緋月と同じく、緋色の髪と瞳を持ち、中性的な顔立ちをしている。
おそらく彼らが鬘を使い、お互いの着物を交換しても、入れ替わっていると気づくものは少ないだろう。
兄妹ではないのに、二人は外見的に似ている部分が多い子供たちであった。
「緋月、いつか帰って来てくれるの……?」
少女の腰まである長い髪は、風の流れに逆らわず、ススキのように静かに揺れる。
緋月は、緋那の頬を両手で包み込んだ。彼女は今にも泣き出しそうだ。
「そんな顔をしないで。俺がこのことを決めた時、一度だって『緋那を助けない』なんて言った?」
「……いいえ」
少女は泣きそうになりながらも否定する。緋月は微笑み、少女を抱きしめた。
「俺は、緋那を助けるよ。この場所から『外』に出すために」
緋月は、緋那の手首に視線を落とした。
ガラスのように透明な枷。それに付いているのは透明な鎖で、屋敷まで続いている。
これは妖怪の妖術で作られたもので、これがある限り彼女の身体はある一定以上の自由が効かない。
一度、無理に壊そうとしたことがあるが、壊せなかった。緋那の体に激痛が走って、力で壊すのは出来なかった。
「緋那……」
緋月は少女を抱きしめる腕に力を加えた。温かい体温が、これからの不安を消してくれる。
「俺は、俺たちが暮らせる場所も、この鎖を壊す方法も、全部見つけて帰ってくるよ」
二人は、異界に閉じ込められていた。否、正確には妖怪たちのせいで抜け出せないでいた。
厳重な警備、毎日決められた時間に来る食事、ほとんど自由などない行動。そしてあまりにもひどい暴力。
抜け出そうと決めたのは、ここ最近ではない。何ヶ月……いや、一年か。二人で考え、話し合い、そしてやっと決めたことだ。
しかし二人は一緒に逃げることが出来ない。緋那の手首の枷を壊すことが出来なかったのだ。
そのため緋月が先に出て行き、安全な場所を確保した後、ここに戻らなければならなかった。それに彼が逃げている間、緋那が時間稼ぎをすることも出来る。
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