第一章 間違い電話

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第一章 間違い電話

 お昼休み。親友の リエがティファニーのお財布を片手に券売機へと向かった。  あたしは、学食のテーブルを確保して待っていたんだけど、今、ふと、留守電のメッセージが残っている事に気付いた。  妙だな。母さんは、何かあればメールで連絡してくるのに何だろう……。  そういえば、以前、あたし名義で契約した保険のことで電話がかかってきた事があったな。  もしかしたら、そっち方面の電話かもしれない。  とりあえず、一四一六と数字を押してから耳を傾けていると、とんでもない台詞が聞こえてきた。 『姉ちゃん、やっべぇよ。マリコが妊娠している。あいつ、家出した。マリコが行きそうな場所を教えてくれよ。探し回ったけとみつからない。なぁ、どうしたらいいか教えてくれよ……』   二十代前半という雰囲気の若い男の声なんだけど、誰なのか見当もつかなかい。あたしは、山田万里子なんだけど弟なんていない。  絶対に、これ、間違い電話なんだわ。   一件目のメッセージは昨夜の深夜の一時。ニ件目のメッセージは今朝の七時半。夜中は寝ているし、朝、あたしはお弁当を作るのに忙しくてバタバタしていた。校内では、基本、電源を切っている。  一件目のメッセージがあまりにも謎めいているから気になるので二件目のメッセージも聞いてみよう。 『なぁなぁ、姉ちゃん。どこにいるんだよ? ラオスでトラブルに巻き込まれたのか? 密輸業者とのインタビューはどうなった? 早く連絡をくれよ。マリコのことで相談したい』  えー。すごく気になる。  電話の主のお姉さんはマスコミ関係の人なのかな。きっと、異国にいるお姉さんと連絡が取れなくてモヤモヤしているに違いない。 『この番号、間違えていますよ』  教えてあげたいけれども特殊詐欺だったりしたら困るし、どうしようと、戸惑っていると、背後でキャッという感じの女の子の声が響いた。 「ああーーー、樋口君がいるよ!」 「やっぱ、カッコいいよね~。ほんと、映えるわ」  イケメンの樋口君が現れた途端に、女の子達の浮ついた視線がレーザービームのように集まる。ほんと、すごいわ。  この食堂は、去年、新しく建てられたばかりで、南向きの窓から燦々と陽光が射しこむ。明るく開放的でテーブルもお洒落なデザインだ。  観葉植物が配置してあり、ニューヨークのカフェのような雰囲気なんだけど、窓辺で気だるそうに佇む光景はハイブラントの雑誌の世界みたいだ。 「樋口くーん、こっちにおいでよぉー。ひとつ椅子が空いてるよぉーー」  二人組みの派手な雰囲気の女子がヒラヒラと手招きしているというのに、彼は、手元の携帯に視線を落としている。 「オレ、連れがいるから遠慮しとくわ。今、忙しいから、おまえら邪魔するなよ」
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