同じ月の下

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別れを切り出したのは突然の事だった。 それはなにも、彼女が嫌になったからではない。生活に苦はなかったし、浮気などももっての他だ。 しかし真意を明かせない事に後ろめたさを感じて、ろくに目も見れずに「これ以上は一緒に居られない、別れよう」と告げた。 それは自分の体が病気に蝕まれていたからだ。そう長くはない、と言われたのだ。 その事を彼女に伝えても、きっと彼女は去ることはしないだろう。どころかきっと、情けない僕のためにと余計に頑張ったことだろう。 僕にとってはそれこそが重荷だった。彼女がそうすることが、彼女の幸せだとは思えなかった。 僕は僕で、彼女と関わりなく自身の運命と立ち向かうべきだと思った。 そして彼女も、僕とは関わりなく幸せになるべきだと思ったのだ。 突然の別れを、不思議に思っただろう。 しかし彼女の事だ。不必要に自己を責めるような事はしないだろう。そう思っていると、彼女も「わかった」と返事をした。 全てでないにせよ、どこか伝わったものもあったのかもしれない。 ただ自分はわがままに、どこか僕のことを覚えていてほしいと願っている。 最期に見た穏やかな満月に、そう願って別れを告げた。
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