夕焼けカバレッタ

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「この、ばかやろう!!」  怒号が響いて、先発した二年生左腕の柳澤はベンチからひょいと首を出した。  撤収準備が続くファールグラウンドの端で、タカヒロがトオルをどやしつけていた。見事、ツーランスクイズを成功させたトオルだが、サイン無視、コーチャー無視なのは確かだ。そこをもう一人の二年生投手、小林が取りなしている。 「ま、そらそうか…」  タカヒロとトオルとはボーイズからの付き合いなので、柳澤はこの事態にもさほど驚かなかった。きっとタカヒロも予想のひとつではあったろうと思うが、調教は彼の仕事なので心の中でエールを送るに留める。  左肩をアイシングしながら荷物をチームメイトに託し、柳澤は藤堂の隣に並んだ。既に準備を終えているキャプテンに、柳澤はそっと尋ねた。 「今日のMVPは誰っすかね?」 「下野」  ベンチの中に指示を飛ばしながらも、藤堂キャプテンは間髪入れずに応える。ただ、一拍おいてこう続けた。 「まぁ、トオルにもいちご牛乳くらいは奢ってやれ」  このあたりが藤堂がキャプテンたる所以である。柳澤は思わず吹き出した。 「あ、はい… って、俺がですか?」 「お前が三点も取られるのが悪い」  真顔で断定した藤堂は、しかし意外なことを付け足す。 「じゃなきゃ、ミズキとワリカンしろ。あいつ、共犯だ」  え、きょうはん… 共犯? と目を白黒させる柳澤を放置して、藤堂は「整列!」と声を張り上げた。
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