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6話 エロくなっちゃった
「はぁ、はぁ、っんぁ……っ」
ぐったりと崩れ落ちて、希望は身体を小さく震わせていた。
全身を責め立てられ、激しく犯されて、身体はまだ快感の波が引いていない。
「んっ、ふぁ……はぁっ……」
鏡には、快楽の余韻に浸って、頬を染める自分の姿は映っていた。希望は急に恥ずかしくなって、しゃがみこんで顔を両手で覆う。
こんなところで、いっぱいえっちなこと言われて、えっちなことされて!
こんなに気持ちよくなっちゃうなんて!
希望は認めざるをえない、と思った。
確かに自分の身体は変わってしまったのだと。
見た目も変わってしまったかもしれないが、それよりも、中身が変わってしまった。
今だって、中に出されて、後の処理が大変なのがわかっていたのに、嬉しくて、それだけで自分がまた達してしまったのがわかったくらいだ。
でも、別にそんなことはどうでもいい。
希望は非常に前向きに考えた。
ライさんが俺のこと「エロい」っていうのは、それくらい俺が魅力的に見えるって意味だ。
ライさんがことあるごとに俺のこと触ってくるのは、それくらい俺がかわいくて仕方なかったのだ。
ライさんが隙あらば俺にえっちなことしてくるのは、それくらい俺のことを求めてくれていると言うことだ。
ということはつまり!
ライさんは俺のことがすごく好きってことだ!!
その結論に落ち着いて、希望は頬を赤く染めた。
こんなところでこんなに激しく抱くのも、俺が魅力的過ぎたのだ。
だから許しましょう。足腰立たないけど、許します。
希望は立ち上がろうとしたが、本当に立てない。
身体も重くて動かなかった。
無理な体勢で激しい行為に及んだから、そうだろうな、と希望は思った。
でも、ライさんは俺のことが好きなんだもんね。
だから、この後抱っこしてベッドに連れて行って、優しく添い寝してくれるかもしれない。
それくらい優しく甘やかしてくれるに違いない。
じゃないと許さない。ぜったい許さない。えっちなことばっかりしやがってあの野郎。
……おっと、この件は許すんだった。忘れてた。
希望は寛大な心を取り戻そう、と大きく深呼吸した。
そんな希望が大きな影が覆う。
見上げると、ライが見下ろしていた。
希望はお風呂上がりに襲われたから、何も身につけていないままだ。恥ずかしいところをなんとかタオルで隠している。
隠しきれない白い肌が露になったまま、キスマークの花びらが舞い、首筋には噛み跡がくっきり付いているだろう。
そんな乱されきった希望の姿とは対照的に、ライは何事もなかったかのように平然としていることに、希望は納得がいかない。
同じくらい乱れるべきではないか、と訴えたい。
しかし、ただでさえ希望より体格が良くて身長の高いライを座り込んだまま見上げると、威圧感で負けてしまいそうだった。
普通に立って並んでてもその存在感と雄の色気に圧倒されるのだから、当然だろう。
今だって、希望の位置からライの表情を伺うことが難しく、それが怖い。何を考えているのかわからなくて怖い。
これ以上何をされるのだろう、と希望が怯えて小さくなっているとライが無言のまま、希望の腕を掴んだ。
「あぅっ……!」
強く掴まれた腕に痛みを感じて、希望は顔を僅かに顰める。
けれど、ライは構わずに立たせようと引き上げた。
「ら、ライさん! 待って、もうちょっと休ませてっ……?」
出口へと引きずっていこうとするので、希望が慌てて呼びかける。
ライはすぐに止まって、希望の腕をぱっ、と離した。
希望がほっとしていると、ライが希望の前にしゃがみ込む。
「希望」
ライに名前を呼ばれて、希望はドキッとした。
ライは希望の名前をあまり呼ばない。
だから珍しい、嬉しい、と胸が高鳴って、希望は思わず期待を込めて顔を上げる。
同時に、ライが希望の顔を覗き込んできたので、希望と目が合った。
ライと目が合って、初めて希望は気づく。
行為の最中に鏡越しのライと目が合った時と同じだった。
暗い瞳の奥で、ぎらり、と残酷な光が荒ぶって垣間見える。
ライはその目のまま、じいっと静かに希望を見つめていた。
「ここで続けるのと、大人しくベッドまで歩くの、どっちがいい?」
その目と冷たく低い声に、希望はきゅうっと心臓が縮んだ。
「……べ、ベッドが、いい……」
「じゃあ来いよ。ほら」
ライが希望の腕を掴んで引き上げ、抱き寄せる。
それに支えられるようにして、希望は攫われていった。
***
ベッドの上に放り投げられて、希望は天井を見上げていた。
緊張と不安が、疲れ切った身体を強張らせる。
またさっきみたいに、ぐちゃぐちゃのどろどろにされるのかな。
気を失うまで蹂躙されてしまう、という予感でドキドキと心臓が大きく鳴っている。
『気持ちいいこと』をするのに、期待がないわけではないけれど、なんと言ってもライとの行為は激しくて怖い。
快楽が嵐のように押し寄せ、どんなに抵抗しても次から次へと絶え間なく与えられる快楽は苦しいくらいだ。
そうじゃなくて、どろどろに溶かされるような時ももちろんあるけれど、先ほどのライの目を見る限り今日は激しく犯されるような気がして震える。
希望がドキドキしながら小さく震えていると、ライがその上に跨がった。
強く抑えつけられて、逃がさないという意思をひしひしと感じると、恐怖とは別の意味でドキドキしてしまう。
確かに怖いけど、逃げないし、拒むつもりなんてないのに。
そう訴えるように希望はライをじっと見つめた。
希望が見つめている目の前で、ライがTシャツを脱ぎ捨てると、屈強な身体が露わになった。
太い首筋に、厚い胸板、逞しい腕や当然のように割れている腹筋が、希望の前に晒される。
ひゃあッ……! か、かっこいい!!
希望も同学年の中では鍛えている方だけれど、ライを見ると生まれ持った身体の作りが違うのだと思い知らされる。
同じ男としてもかっこいいと思うし、恋人として見ても魅力的だ。
顔立ちも精悍で、鋭い眼差しも形の良い眉も凜々しく、厚めの唇はセクシーだと思う。
希望の好きな、感情の窺えない暗く冷たい瞳は、濃くて深い緑色。
エメラルドみたいで綺麗だ。
ああ、すごい。俺の彼氏、すっごいかっこいい……。
性格が悪くて怖いとか、性根がねじ曲がって歪んでるなんて、想像できない。
……いや、できるか、目が怖いし。
……でも、怖くて、かっこいい。
……はあ、やっぱり好き……。
希望はこれからの激しく長い夜への不安は放り投げて、目の前の恋人に見惚れてしまった。
「……なに?」
希望の視線に気づいて、ライが少し笑って首を傾げた。
僅かに目を細めて笑みを浮かべるその表情が、希望の心を打ち抜いてしまう。
希望は照れて目を背けながらも、時々ちらちらとライを見つめて、もにょもにょと何か言いたそうで言わない。
そんな希望を見て、ライは「……ああ、」と何かに気づいたように、希望に覆い被さる。
希望はライの体温と少し汗ばんだ肌の香りを感じていた。
あぁっ、熱くて、なんかえっちな匂いがする……!
希望がくらくらとしながら大人しくしていると、ごつごつとしたライの指先がそっと希望の髪に触れ、耳元から首筋を撫でていく。
希望はくすぐったさに、身を捩った。
「あっ、んっ……?」
「キス」
「え?」
ライの指先が希望の首筋から顎のラインをなぞり、唇に触れた。
希望の厚めの唇の感触を指先で確かめるように撫でている。
「キスしてなかったなって」
希望のきょとん、とした顔を見て、ライが笑った。
「ご褒美。ほしい?」
そう言って、ライが首を傾げるのを、希望は目を丸くしていた。
突然のことにポカンとしてライを見つめている。
「……う、うん……」
気づいた時にはそう答えて、頷いてしまっていた。
ライが笑うのが見えた後、ゆっくりと自分の唇に触れる柔らかな感触があった。
そのままがぶり、と食べられてしまうようなキスをされる。
思わず目を瞑って、それを受け入れた。
「んんっ、ふっ、んぅっ……!」
後頭部をしっかりと抑えられ、角度を変えて、何度も何度も吸い付かれる。
じっくりと口内を嬲られ、頭の芯が痺れていくような気がした。
「ンンッ、ぅんっ……、ふぁっ……!」
濃厚な口づけの後、唇が離れると、希望はとろんと潤んだ瞳でライを見つめた。
キスを受け入れたままの半開きの唇に、八重歯と赤い舌が覗いている。
先ほどまでどこか緊張して身体を強張らせていたのに、キス一つで解けてしまっていることが、ライにはおかしかった。
「ほんとに、キス好きだよな」
少し呆れたように笑うライに、希望は「それは違う」と言いたかった。
確かにキスは好きだけど、そうじゃない。
ライさんがしてくれるから、気持ちいいのに。
それが大事なのに。
「……うん、好き……」
けれど、とろんとした表情のまま、希望は微笑んだ。
ぽやぽやと気持ちが良くて幸せで、とても反論する気にはならなかった。
希望が強請らなくても、ライからキスをしてくれたことが嬉しい。
ライは希望の顔のすぐ横に腕をついて、見下ろしている。
「もう一回する?」
「するぅ……」
「ふはっ」
希望がふわふわと答えて甘えたように腕を伸ばすと、ライはやっぱり呆れたように笑った。
けれど、また髪を撫でて、ゆっくりキスをしてくれる。
そこから唇を離れて、首筋、鎖骨、胸へとキスが降ってきた。
ライが触れるところから、熱がじりじりと全身を犯していく。
「……ねぇ、やっぱり、俺エロい?」
「あ? まだわかんないの?」
「あんっ!」
ライが希望を睨んで、ぎゅう、と乳首を摘まむと、びくっと希望の身体が震えてしまった。
「ンンッ……そ、そうじゃ、なくて……っ」
「なに?」
「……エロくなった、って言われて恥ずかしかったし、嫌だったけど、でも……」
ぷっくり膨らんだ乳首も、
むっちりと弾力のあるお尻も、
快楽を求めてうねる腰も、
固くて熱いものを受け入れて締め付ける蕾も。
全部、ライの為のものだ。
ライの為に作り替えられたのだ。
そう考えると、身体の奥で熱が溢れる。
心も満ちて、ドキドキしてしまう。
「……俺のぜんぶ、ライさんのものになってるって思ったら、ちょっとうれしい」
それがこの上なく幸福なことのような気がして、希望が笑った。
「……ぶち犯すぞ」
「え? な、なんで、アッ、やっ、ぁぁんっ?!」
「黙れ」
「ひゃぁんっ! あ、っぁんっ! ぁっ、あっ、あぁっ!」
「甘えた声出してんじゃねぇよ」
「な、なんで、怒って、……あっ! まって、やさ、優しく、し、てっ……ァアッ!」
希望の最初の不安通り、激しく長い夜が始まろうとしていた。
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