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貰い物
チビのお美代は月の夜道を、風呂桶を抱えて歩いていた。お美代が一歩すすむたびに、なかの水が跳ねてこぼれそうになる。
しかも、両腕で抱えているから、足元が見えない。一歩一歩、探るように歩いていた。
実は、向かいの長屋の龍あんちゃんが、お美代の姉に贈り物だと言って、水浴びもできそうなくらい大きなたらいに水を張って、持ってきたのだ。日が落ちてすぐのことだった。たらいを覗くと、まんまるお月さんがひとつ、浮かんでいた。結子姉さんは喜んで、龍あんちゃんと縁側に座って、その月を眺めはじめた。
かたわらにいたお美代は、あることを思いついた。
「龍あんちゃん、これ、風呂桶に少し分けてくれない?」
「ああ、いいよ」
龍あんちゃんは、勝手知ったる人の家の風呂場から、風呂桶を持ってくると、たらいから月ごと水を汲んで、7分目ほど入れた。お美代が横から覗くと、そこにはお月さんがひとつ浮かんでいた。
「そら、お美代のだ」
「ありがとう、龍あんちゃん!──結子姉さん、わたし、ちょっと先生のところへ行ってくるね!」
先生とは、寺子屋の真田先生のことだ。
「あんまり遅くならんのよ」
「わかってる。いってきます!」
それで今、夜道を歩いているわけなのだ。
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