エピローグ

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 そうこうしているうちに、平塚刑事と一緒に静香さんがこちら側に戻ってきた。  隼人さんの遺体とアウディは船で回収するらしい。とりあえず静香さんは別荘に戻ってガレージを開けてくれるという。確かにそうしてもらわないと、薫ちゃんのジープが出せない。  全員でぞろぞろと崖上までの急な道を登っていく。朝、この道を下りていくときに抱いていた焦燥感はすっかり消えていたけれど、一件落着したから晴れやかな気分になれるというものでもない。  人の死に関わる仕事というのは、何でもそうだろう。  平塚刑事と静香さんに見送られながら、私たちは別荘を後にした。  茅ヶ崎先輩は後部座席からあれこれ話しかけてきていたけれど、静かになったなと思って振り返ってみたら、大口を開けて爆睡していた。 「夕べは怖くてよく眠れなかったって言ってたから、そっとしておいてあげましょ」  薫ちゃんが茅ヶ崎先輩の寝顔に優しい眼差しを向けたのは意外だったけれど、睡眠不足なのに崖を昇り降りした先輩を労う気持ちがあるのだろう。  茅ヶ崎先輩は好奇心で静香さんの車に同乗してきたように思っていたけれど、もしかしたら私のことを心配してついてきてくれたのかもしれない。怖がりなのに最後まで捜索に付き合ってくれた先輩に感謝だ。  海沿いの道には、まだあちこちに台風の爪痕が残っていた。小さい枝や葉が散乱していたり、道路を塞ぐほどではないものの崖崩れを起こしているところもあった。 「台風が収まってから捜しに来ても良かったね」  依頼を受けると猪突猛進に捜そうとしてしまうのは私の悪い癖だ。車窓の外に広がる青空を見ていたら、あんなに焦って捜さなくても良かったのにと後悔の念が湧き上がった。 「それは結果論でしょ。あたしは優の必死な気持ちが通じたから、隼人さんの遺体は海に流されずに済んだんだと思うわよ?」 「そうかな?」 「そうよ。それにしてもあんたが霊と会話できたって知ったら、婆様(ばばさま)たち大喜びするでしょうね」 「うわっ、どうしよう。言わなきゃダメ? まぐれかもしれないよ?」  途端に心臓がバクバクしてきた。一族のみんなの期待を裏切ったらどうしよう。 「大丈夫よ。あたしがついてるから。ね!」  ポンポンと優しく頭を撫でてくれたのは一瞬で、また薫ちゃんはハンドルを握って運転に集中した。  そうだよね。薫ちゃんがいてくれたら、何があっても大丈夫な気がする。  きっと次の依頼はすぐにやってくるだろう。  死者は待ってくれないのだ。 END
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