彼は消えて、僕は残る

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 中学に入学した僕は、1学期の間だけ彼と言葉を交わした。 彼の口癖は「嫌い」「興味ない」「面白くない」と、否定の言葉ばかりだったから、誰もそばにはいなかった。 自意識過剰だった僕も一人で、だけど、ひとりぼっちの姿を見せられなくて、本に夢中だから、放っといてというふりをしていた。休み時間はいつも本ばかり読んでいた。 彼は違う。一人で、ただ泰然としていた。僕とは全く違う存在だった。 当たり前のように、僕らは同じ係となって、言葉を交わす機会が増える。 夏休み前の、宿題を仕分けていた時に、彼はこれまでになく饒舌になった。 「勉強も嫌い、汗をかくのも嫌だ。野球もサッカーも興味ない。アイドルも、TVも映画もアニメもどうでもいいや。カードもゲームもよくわからん。カレーもハンバーガーも、ポテトチップも好きじゃない。ねぇ、俺はどうしたらいい?」 呪文のように、もっといろいろな単語が並べられていたけど、思いだせるのはこんなところ。 吐き捨てるって言葉、そのままだった。 僕は、お気に入りのライトノベルのタイトルをいくつか列挙して、絶対面白いから、読んでみてなんて、本好きの友達にお勧めするかのように言ったのだ。 「機会があれば」 否定する言葉を使わずに、彼は遠くを見るような目で、当たり障りのない返事をした。 夏休みが終わり、二学期が始まると彼の姿はない。クラスメートから彼の話題は持ち上がらなかったし、僕もまた、先生に彼のことを尋ねたりはしなかった。 だけど、どうしてだろう? 僕は時々、彼のことを思い出す。何もかもが嫌だといった彼の言葉を思い出す。
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