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午前零時四十二分、凛は約束の時間よりだいぶ遅れてやってきた。
錆びた門の向こうで、凛はキョロキョロと辺りを見渡している。私は縁側から立ち上がると囁くように凛を呼んだ。
凛が私の実家に来るのは初めてのことだった。
「なんで、ここで待ち合わせなの?」
訝しむように言う。暗闇に浮かぶ屋根瓦は、どこか凛を不安にさせるようだった。
「〝戦利品〟が持ちきれなくなっちゃったから」
適当な嘘をついてみせると、凛は一転して満更でもなさそうな顔をした。現金なことだ。小金持ちでも、その物欲を満たせる程のお小遣いはもらえていないらしい。
磨りガラスの引き戸を開け、土足のまま玄関を通り抜けた。
一歩進むたびに板張りの廊下がミシリと唸る。破れた障子の先から月明かりが入り込んで、一面に舞う埃を照らしていた。
「何これ、廃屋じゃない。電気も通ってないの? 物置にもならないわよ、こんなの」
後ろで凛がせせら笑う。私はその嘲笑を気にせず進んだ。廊下を曲がる際、彼女に聞こえないくらいの声で「物置くらいにはなるのよ」と呟いた。
一番奥の和室に入ると、空気はより一層重く肩や腕にのしかかってきた。
畳の目から塵が吹き出る。それらは私たちを取り囲み、皮膚にちらちらとまとわりついた。
「ちょっと。戦利品とやらを早く見せなさいよ。本当に盗ってきたんでしょうね」
凛は両手で口を覆っている。ここにいるのが耐えきれないといった様子だ。
私は彼女を振り返ると、部屋の隅に置いておいたショップバッグに手を掛けた。
勿体ぶるように、ゆっくりとその中に手を入れる。
しかし、私がそこから取り出したのはおしゃれな服やバッグではなく、一本のロープだった。
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