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「そちらのバッグは三色展開しております。よろしければお鏡で合わせてみてくださいね」
そう言って彼女は姿見をこちらに向けた。思わず後ずさると、私は慌ててバッグを棚へと戻した。
「……あ、大丈夫、です。ありがとうございます」
そう言いながら会釈をし、歩き出す。
ガラス扉の鈴が鳴る。女性が私の背中に「ありがとうございました」と声を掛ける。
その言葉が妙に機械的に聞こえた気がして、私は外に出ると逃げるように走り出した。
田舎の町は街灯が少なく、店を離れると辺りはすぐ闇に包まれた。
暗い夜道をひたすら走る。アスファルトの道は青白く、人気のない通りを仄かに照らしている。
いや、違う。青白いのは月の明かりか。
空を見上げると寒々とした月が私を見つめていた。どこか無関心そうなその視線は、私に向けられているのか、いないのか。
「バッグは?」
唐突なその声に足を止めると、店の軒下に凛が立っているのが見えた。
この田舎町に似合わない、派手な巻き髪とミニスカートが闇に浮かぶ。バッグに添えられた高級ブランドのロゴと、背後の八百屋のシャッターがミスマッチでどこか滑稽に見えた。
私はおずおずと返事をした。
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