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「……あの……。……やっぱり、お金なくて」
「はあ?」
凛はヒールを鳴らしながら目の前までやってきた。
そして、胸ぐらでも掴みそうな距離感で私を睨みつけてくる。
「誰も買ってこいなんて言ってないだろ。盗ってこい、って言ったんだけど」
「で……でも、バレそうだったから」
「バレそう?」
凛は舌打ちすると、持っていたバッグで私の腰を叩いた。
衝撃に倒れそうになりながらも、その場に踏ん張り彼女を見返す。彼女は美しい顔立ちをしていたが、怒りに歪んだその表情は般若か何かのようだった。
「はあ……。鈍臭いとこ、昔から変わってねーのな」
その汚らしい言葉に、反論する気力もない。
黙り込んでいると、凛はさらに畳み掛けてきた。
「店員が見てない間にさ、ささっと持ってくればいいんだよ。使えねーやつだな。少しはさ、母親を見習ったらどう?」
……母親?
見習う?
あの人に、手本にしたい部分なんてどこにもないけど。
そう言いたかったけれど、私は口を閉ざした。
「才能ないのね。盗人のコドモのくせに」
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