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『私、明日の夜には東京に帰らないと』
歩きながら返信する。すると、五月雨式に返事が返ってきた。
『逃げんの?』
『ふざけんなよ』
『バックれたらどうなるか分かってんだろうな』
画像が添付されている。
それは、地元の新聞の小さな記事を写したものだった。
「……マチ子!」
不意に肩を掴まれ、ぎょっとした。
香水の匂いと共に、凛の艶めかしい唇が私の耳元まで接近していた。
反射的に、その手を振りほどく。凛はただニヤニヤと笑っていた。
「……なんで、ここが?」
「あはは。びっくりしたでしょ? マスターに、もしマチ子が来たら連絡しろって言っておいたの」
言葉を失う。思わず、先程まで居た喫茶店を振り返った。
喫茶店の店主であるマスターは、私の昔からの顔馴染みだ。私が学校のことで悩んでいた時も静かに話を聞いてくれた。つい先程も、懐かしがって長いこと近況を話してくれた、優しい人。
私が中学の頃、村八分にされていた元凶を知っているはずなのに。
……凛に、加担を?
「明日ね、中町の方で新しいショッピングモールが開くのよ。有名どころのブランドも入ってるんだって。この田舎町に珍しいでしょう? ねえ。……行ってきてくれるよね」
目眩がした。
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