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「駅前のジジババたち、商店街の奴ら、あんたのお母さん……。パパの邪魔になる人は全員地獄を見たわ。スーパーの経営っていうのは長く続けてると、地元にいろんなパイプができるのよ。ちょっとガラの悪いトモダチに頼めば、小売店も喫茶店も潰すのなんて簡単……これが弱肉強食ってやつなんだろうね」
そこで言葉を区切ると、凛は私を睨みつけた。
「……だけど、いじめがいのあるおもちゃが一匹、逃げ出した」
そう言ってまたタバコを吸い、煙をこちらに吹きかける。
私が咳き込むのを凛は楽しそうに見ていた。
「ねえ、マチ子。あんた身の程って言葉知ってる? 私は知ってるよ。この町では小金持ちの私も、東京に行ったらせいぜい〝中の上〟程度だっていうことも、パパのお店はどう足掻いたって県外にまで進出することはできないってこともね。……なのに、お前ごときがこの町から離れて東京で幸せになろうなんて、生意気なんだよ」
どん、と胸を押され、私は倒れた。
同時に凛がバッグから大量の紙切れを取り出す。
それは新聞の切り抜きだった。コピーをしてあるらしく、右手いっぱいに同じものが溢れていた。
「犯罪者の娘のくせに」
それを、空に向かって放り投げる。灰色の紙はパラパラと舞い、地面へと落ちた。
見出しには、〝スーパーに恨み 窃盗を繰り返した四十二歳女性逮捕〟の文字。
母の罪がまた、暴かれていく。
世界に広まっていく。
紙切れたちを拾おうとしたが、凛は遮るようにそれらを踏み付けた。
「あんたもさ、母親みたいに私を楽しませてよ。できるんでしょう? 演技なんかしてないでさ、本性出しなよ。……どうせ、お前もあの母親と一緒にやってたんだろ?」
凛が私の顔を覗き込む。
私は俯くことしかできなかった。
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