19人が本棚に入れています
本棚に追加
母の逮捕後、私は元々同居していた祖父と二人で暮らした。その祖父も十九の頃他界し、私は一人東京へ出てきた。
今の会社は、何もできない私を育ててくれた。恩のある会社だ。しかしその繋がりは、アドレス帳やメールの足跡から凛にバレてしまった。
彼らは、私の母親が犯罪者だと知ったら幻滅するだろうか。
それとも、〝君は君だよ〟と言って笑い流してくれるだろうか。
どちらにしても居心地が悪くなることに変わりはないだろう。私はどうしたって、彼らから好奇の視線を感じてしまうのだから。
もし凛にバラされたら、私は……。
のろのろとベッドから起き上がった。
二階の窓から外を覗くと、視界には駅前だというのにシャッター街と化している寂しい町並みが望めた。
空には今日も、青白い月が浮かんでいる。
「お天道様が、見てるから……」
静かに呟く。
すると、悩んでいた気持ちがするすると溶けていくような気がした。
呼吸が深く、緩やかになっていく。肩にのしかかっていた重い何かが、ぽろぽろと落ちていくのを感じる。
……そうか。
私は大きく息を吸った。体の中に、新鮮な酸素が取り込まれていく。
悩むことなど、ないのだ。
私はこの先、自分の人生を生きていく。それでいいのだ。
誰にも邪魔はさせない。
これは私の人生だ。お母さんにも、凛にも、邪魔なんかさせない。
そう。誰にも……。
うっとりと、夜の町を眺める。
世界はいつまでも、冷たい青に満たされていた。
最初のコメントを投稿しよう!