お天道様が見てるから

9/14
前へ
/14ページ
次へ
   母の逮捕後、私は元々同居していた祖父と二人で暮らした。その祖父も十九の頃他界し、私は一人東京へ出てきた。  今の会社は、何もできない私を育ててくれた。恩のある会社だ。しかしその繋がりは、アドレス帳やメールの足跡から凛にバレてしまった。  彼らは、私の母親が犯罪者だと知ったら幻滅するだろうか。  それとも、〝君は君だよ〟と言って笑い流してくれるだろうか。  どちらにしても居心地が悪くなることに変わりはないだろう。私はどうしたって、彼らから好奇の視線を感じてしまうのだから。  もし凛にバラされたら、私は……。  のろのろとベッドから起き上がった。  二階の窓から外を覗くと、視界には駅前だというのにシャッター街と化している寂しい町並みが望めた。  空には今日も、青白い月が浮かんでいる。 「お天道様が、見てるから……」  静かに呟く。  すると、悩んでいた気持ちがするすると溶けていくような気がした。  呼吸が深く、緩やかになっていく。肩にのしかかっていた重い何かが、ぽろぽろと落ちていくのを感じる。  ……そうか。  私は大きく息を吸った。体の中に、新鮮な酸素が取り込まれていく。  悩むことなど、ないのだ。  私はこの先、自分の人生を生きていく。それでいいのだ。  誰にも邪魔はさせない。  これは私の人生だ。お母さんにも、凛にも、邪魔なんかさせない。  そう。誰にも……。  うっとりと、夜の町を眺める。  世界はいつまでも、冷たい青に満たされていた。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加