10.月曜の朝

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 あのあと修太郎(しゅうたろう)さんのマンションから、彼が呼んでくださったタクシーで自宅まで送っていただいた。  タクシーくらい一人で乗れるのに、「こんな夜更けに大事な貴女を一人で帰らせるわけにはいきません」と言われて、ついには実家の門扉(もんぴ)をくぐるところまで見届けられた。 (そういえばあの時、私はちゃんと運転手さんに自宅の住所を伝えられたのでしょうか)  何だかその辺の記憶が曖昧だったけれど、無事に家にたどり着けたところをみると、恐らく言えたんだと思う。 (だって、修太郎さんは私の自宅をご存知なかったはずですもの……)  履歴書には住所などを明記しておいたけれど、いくら修太郎さんが優秀な方でも、まさかそんなのを暗記しておられるはずはない。  タクシーの降り(ぎわ)にお財布を出そうとしたら制されてしまったので……結局修太郎さんには往復の運賃がかかることになってしまったと思う。何だかすごく申し訳なかった。  そこまで思い浮かべて、ふと修太郎さんから、タクシーの中で「難しいかもしれませんが、頑張って例の約束を取り付けてくださいね」と何度も念押しされたのを思い出す。  それなのに――。週末には勇気が出せなくて……私は健二(けんじ)さんに何のリアクションも起こせていなかった。
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