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「しゅ……塚田、さん?」
二人きりではあるけれど、一応職場。私は無言で近づいていらした彼を見上げると、名前を呼びそうになったのを咄嗟に訂正して、苗字のほうで呼び直した。
裸眼のお顔を見慣れていないので、少し緊張してしまう。でもやはり修太郎さんの眼鏡を外されたお顔にはどこか懐かしい既視感もあって。
ふと視線を転じると、机上に綺麗に畳まれた修太郎さんの黒縁眼鏡が置かれているのが見えた。
「日織さん、二人きりの時は修太郎を呼ぶようにと、何度言えば分かるんですか?」
不機嫌そうな声でそう言われて、いきなり腰をギュッと引き寄せられる。
そのままあごを上向けられて、
「修……っ、……んっ」
驚いて発した「修太郎さん」の声は、半ばで彼の口付けに封じられてしまった。
舌まで差し入れていらっしゃる激しいキスに、私は修太郎さんの気持ちが推し量れなくて混乱する。
先日は何となく理解できたと思っていた呼吸のタイミングも、あまりに性急な彼の求めの前には太刀打ちできなくて。
「んっ、ふ、ぁっ……」
苦しくてギュッと目をつぶったら、口の端からどちらのものともつかない唾液が流れ落ちてあごを伝わった。
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