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しばらく私が肌を拭われる音と、二人の息遣いだけが部屋の中にあって、どちらも何も喋らない状態が続いて――。
その沈黙を破ったのは修太郎さんだった。
「日織さん、ごめんなさい……」
私を清め終わった修太郎さんに、そっと身体の向きを変えられて、彼の方を向かされる。先ほどまでの強気が嘘みたいにどこかおろおろとした様子で頭をお下げになられた修太郎さんを、私はまるで他人ごとのようにうつろな心のまま、ぼんやりと見つめた。
私につむじをお見せになられたまま、
「――僕はただ……」
とつぶやくようにお続けになる修太郎さんの言葉ひとつひとつを、けれど私はまともに受け取れるような精神状態にはなくて――。
自分ではそのつもりもなく、気がつけば彼の後頭部からでさえも、視線を伏せるようにしてそらしてしまっていた。
そんな私の様子に気がついたらしい修太郎さんが、気遣わしげに私の両腕に触れていらっしゃる。
その感触ですら怖くて、思わずビクッと肩を震わせてしまった私に、修太郎さんはまるで腫れ物を扱うように、さらに柔らかく触れていらして。
それが逆に、さっきまでの強引な修太郎さんの触れ方と違いすぎて、私は誰に触れられているのか分からなくて混乱してしまった。
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