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私の言葉を黙って聞いていらしたお父様が、「わかった」と言って立ち上がられた。
そうしていつも持ち歩いていらっしゃる手帳を紐解いて、健二さんの連絡先が記された箇所を指し示してくださる。
私はそれを自分のスケジュール帳のアドレス欄にメモしてから、もうひとつ言わねばならないことがあるのを思い出した。
「あの、お父様……。もうひとつお話が……」
それを言おうとしたら、健二さんの連絡先をお聞きした時よりも緊張してしまったのは何故だろう。
「なんだい?」
お父様が穏やかな目で私を見つめてくださって……私はそのことにほんの少し安堵して、思い切って口を開く。
「あの……貯金を少し下ろして携帯電話を契約しても構わないでしょうか?」
今までお友達が手にしているのを見ても、さして必要性を感じなかったそれを、生まれて初めて欲しいと思ってしまった。
私も人並みに、修太郎さんとメールをしたりお話をしたりしてみたい。
修太郎さんは特に何もおっしゃらなかったけれど、歓迎会のあったあの日、私に御自身の連絡先を渡してくださってから、私が携帯を持っていないことを知ると、少し驚いていらした。
そうして「日織さんらしいですね」と微笑まれたのを覚えている。
(私が携帯を持つとお話したら、修太郎さんは驚いたりなさるでしょうか)
修太郎さんの反応を想像したら、何だかワクワクしてしまった。
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