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(私ばっかり傷ついた気になるなんて、いけないことなのです……)
私は修太郎さんに見えない角度で鞄を握る手にギュッと力を込めると、気持ちを切り替える努力をした。
「――じゃあ私、そろそろ行きますね」
薄く微笑んで修太郎さんを見つめたけれど、うまく笑顔になれていないかも。
でも、幸いなことに私は太陽を背負う形になっていて。修太郎さんは私のほうを眩しそうに目を眇めて見返していらした。
それをいいことに、泣きそうなのを誤魔化すようにくるりと踵を返したら、腕をギュッと捕われて引き留められた。
「しゅう……」
何事かと彼のお名前を呼ぼうとしたら、修太郎さんにグイッと引き寄せられて、口付けられてしまい――。
「……んっ」
誰かに見られてしまうかも……という思いは、彼の舌が私の舌を絡めとるように吸い上げた途端、瞬く間に霧散していた。
紅に染まる夕陽を背に、私は修太郎さんと、周りのことが全て消し飛んでしまうような、うっとりするキスをした――。
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