13.車のなか*

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「どうして? 僕はあの日の日織(ひおり)さんの可愛らしい姿を絶対に忘れたくはないのに」  言って、繋いだままの私の手を持ち上げると、修太郎さんは私の視線が絡むのを意図的に確認なさってから、その手の甲にキスを落とされた。  そうして、私の人差し指を軽く口に含んでいらして――。  私はどうしてもその様子から視線が外せなくて……恥ずかしいのにじっと見つめてしまう。  修太郎さんの唇が触れたところから熱が伝染してくるようで、一気に全身が燃え上がるような熱を帯びてしまった。 「あ、……んっ」  ただ、指にほんの少し舌を這わされただけ。  それだけのことなのに、背中をゾクリと快感が突き抜けて、私は思わず小さく吐息を()らしてしまう。  これ以上この状態が続いたらおかしくなってしまう。  そう思ったとき、信号が青に変わって、修太郎さんは私の指先をチュッと吸い上げると、何事もなかったように手を元の場所に下ろされた。  車が動き始めて、窓外を流れるように景色が過ぎ去っていく。  それを見るとはなしに見つめながら、私は切ない気持ちで太腿(ふともも)にぎゅっと力をこめる。  いま修太郎さんのほうを見てしまったら、今度こそどうにかなってしまいそうで、私は視線を窓から離せない。でも、実際には何ひとつまともに見えてなんかいなくて。  私はなんとも言えない苦しさに、思わず左手を胸に当てた。  意識の大半を占めているのは、手の下で暴れ狂っている心臓をなだめる方法(すべ)と、身体の中心に向けて集まりつつある熱をいかにして追い払うか、ということばかり。
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