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「日織さん、大丈夫ですか?」
どちらもが困難で眉根を寄せて身動いだら、その気配に前方を見つめたまま修太郎さんが声をかけていらっしゃる。
言葉がけに呼応するように、繋がれた右手が軽くキュッとにぎられる。
「――は、はい」
何とか呼吸を落ち着けながら……動揺しているのを悟られないように気をつけて、私は彼の呼びかけに応じた。
彼の声に応えられたことが自信になったのか、少し気持ちが落ち着いてきて、外の景色に気を払う余裕ができた。
(――あ。もうすぐ家に着いてしまうのです)
それで、気がついた。
意識していなかった間に、私を乗せた車は家のすぐそばまで帰ってきていた。
修太郎さんと二人きりの時間も、もうすぐ終わってしまうんだ、と思うと途端に寂しくなる。
ちらりと修太郎さんの横顔を盗み見て、私は小さく吐息を漏らした。
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