13.車のなか*

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それにしても。  一度タクシーでいらしただけで、私の自宅の場所を覚えてしまわれるなんて、修太郎さんは本当にすごい。  私はバスに乗って真剣に町並みを眺めていても、なかなか行きたい場所への道順が覚えられないのに。  自慢じゃないけれど、私、未だに市内で少し知らない路地に入ったら、すぐに迷子になれちゃう。  何だか、あらためて私と修太郎さんは、年齢だけじゃなく、生きていく力にも差があるんだなぁと思ってしまった。 「もうこんなところまで帰って来てたんですね」  先の角を曲がれば私の家が見える、という段になって、いよいよお別れなんだ……と寂しく思って吐息まじりにそう言うと、 「このままご自宅の前につけますか? それとも一旦通り過ぎたほうがいいですか?」  絡めたままの私の手指を、まるで無意識のようにフニフニと握りながら、修太郎さんが問いかけていらっしゃる。  手の動きはとてもリズミカルで楽しそうに見えるのに、視線だけは何事もないみたいに前方を見つめていらして。そのギャップに私は戸惑った。
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