13.車のなか*

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「健二とは、ちゃんと話をつけるご予定なんですよね?」  いつの間にか自宅の前は通り過ぎていて――ひとつ先の角を曲がった所で車を停車なさった修太郎(しゅうたろう)さんが、前方を見据えたまま、静かな声音でそう聞いていらした。  修太郎さんが、眼鏡を外してダッシュボードにお置きになられたのを見て、何故か心がざわざわとして彼から目が離せなくなる。  発せられたお声は、静かで落ち着いていらしたけれど、どこかピリピリとした鋭さを(はら)んでいて。  私は彼の雰囲気に気圧(けお)されてひるんでしまい、修太郎さんの質問にすぐ応えられなかった。 「日織(ひおり)さん?」  そのことに()れたように修太郎さんが私の名前をお呼びになって……。その声に責められているように感じた私は、修太郎さんのほうを見つめたまま固まってしまう。  と、カチャンという小さな金属音がした直後、結ばれていた右手をグイッと引き上げられて、助手席シートに押し付けられた。そのことに驚いて修太郎さんのほうを見たと同時に助手席(こちら)側へ身体を乗り出してこられた彼にあごをとらえられて――。 「――んんっ」  何がなんだか分からないうちに、私は修太郎さんに唇をふさがれていた。  絡められる舌に訳もわからずひとしきり翻弄(ほんろう)されてから、口の端からあふれて首筋を伝った唾液の感触にゾクリ、と身体を震わせる。 「……ふ、ぁっ」  鼻から抜けるような吐息が漏れてからやっと、修太郎さんに噛み付くようなキスされているのだと、頭が追いついた。  私に覆いかぶさるようにのし掛かる修太郎さんの体温に、私はこれが夢なんかではなく、現実なのだと思い知る。  それとともに、ここが家の近くの路地だと思い出して。 「――はぁっ、んっ、……しゅ、たろぉさんっ、ヤメ……っ!」  必死であごをとらえる右手から逃れて顔をそらしてから、彼の胸元へと封じられていない左手をつく。そうして修太郎さんの身体を押し戻そうと試みるけれど、全然びくともしなくて――。
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