13.車のなか*

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*** 「……日織(ひおり)さん、僕はまた……」  そこまで言って、唇を噛むようにして言葉を止めると、修太郎さんは私から身体を離して「ごめんなさい……」とつぶやかれた。  私は、咄嗟(とっさ)に赤くなった右手を修太郎さんから隠すように左手で包んで、「私のほうこそ……さっきはわざと修太郎さんにひどいことをしてしまいました。すみません」と謝る。  修太郎さんの豹変(ひょうへん)ぶりを肌で感じたのは今回で二度目。  それは、どちらも……たぶん修太郎さんが強く嫉妬(しっと)なさったときで。  確かにどちらもすくんでしまうほど怖かったけれど……でも、(こと)、今のに関しては、最初に修太郎さんを挑発したのはまぎれもなく私自身だから。  許婚(いいなずけ)の話を出される辛さは私にも痛いほど分かっているはずなのに、どんな理由があっても、あんなことをしてはいけなかった。 「修太郎さん、私、なんだか自分ばかりが一方的に貴方のことを好きみたいで……とても寂しかったんです。私ばかりドキドキしているみたいなのが悔しくて……悲しくて……。修太郎さんにも私と同じように苦しい思いを経験して頂きたいと、自分勝手なことを思ってしまいました。……最低なのです」  そこで目端(めはし)を濡らす涙をぬぐって修太郎さんを見つめると、私は彼の左手を両手でギュッと握った。
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