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「ほら、予約の時間が近いですし、あの人は待たせると後が怖いので、急ぎますよ?」
腕時計をちらりと見られた健二さんが、膠着したままの微妙な空気を断ち切るように、そうおっしゃった。
言うなりさっさと歩き出してしまう彼の後に続いて、修太郎さんが「行きましょう」と手を引いてくださる。
(いつも飄々としていらっしゃる健二さんを、こんな風に慌てさせてしまう人って、一体どんな方なんでしょう?)
ふとそう思って修太郎さんの方を見たら、彼も同じことを思われたのか、パチリと視線が絡んだ。
さっきからなかなか私の方を見てくださらなかった修太郎さんのお顔を見て、何だか照れてしまう。
色んなことに一杯一杯で今まで気が回らなかったけれど、スーツ姿の修太郎さんはとてもかっこ良くて。
私は修太郎さんに手を引かれて歩きながら、絡み合った視線を彼から外せなくなる。
「……日織さん」
そんな私から先に視線を逸らされたのは修太郎さんで。
「そんなに見詰められると照れてしまうのですが。……ひょっとして、僕の顔に何か付いていますか?」
照れ隠しか、視線を上方にかわしながら鼻の頭を掻かれる修太郎さんの仕草が愛しくて。
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