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私のほうの許婚問題は、健二さんと修太郎さんが現れたことで、一番の難関――健二さんへの告白と謝罪――は図らずもクリアできた感じになった。
それですっかり失念していたけれど、
(修太郎さんのほうは、きっと何ひとつ片付いておられないのですっ)
私は修太郎さんが絡めていらっしゃる指に応える形でギュッと握っていた手指から、力を抜いた。
こんなふうに、ルンルンで恋人つなぎをしている場合ではないと気がついたから。
(修太郎さんの手の温もりは、私だけのものじゃないのです……)
そう思ったら、とても悲しくなった。
「日織さん?」
私が指から力を抜いたことに気付かれた修太郎さんが、気遣わしげに声を掛けていらしたけれど、私は彼のお顔をみることが出来なかった。
(きっと今、私、凄く醜い顔になってるに違いないのです……)
修太郎さんと、親御さん公認の仲なその女性が、羨ましくてたまらない。
(きっとその女性は、目端が利く、利発なかたに違いないのです。――私とは真逆の……)
勝手にそんなことまで思ってしまって、自分で自分が嫌になった。
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