16.佳穂さん

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 佳穂(かほ)さんは修太郎さんのそんな一連の行動をご覧になられても、いっかな意に介した素振りをお見せになられなくて。  そればかりか、花がほころぶような美しい笑みを浮かべられる。  ある意味その表情は、勝ち誇った女性の余裕にも見えて。 「ごめんなさい、日織(ひおり)さん。私のほうの自己紹介がまだだったわね。私は四谷(よつや)佳穂。そこにいる健二の幼なじみなの」  とおっしゃる。 (健二さんの幼なじみということは、彼と同い年の二十四歳でしょうか? 私と四つしか離れていらっしゃらないのに、とってもとっても落ち着いた大人の女性の魅力をお持ちなのですっ!)  そう思って見つめていたら、健二さんが横あいから口を開かれる。 「幼なじみって言っても彼女(そいつ)、俺より四つ歳上の二十八ですから」  日織さん、絶対いま、俺と同級生だと思って佳穂のこと見てたでしょう?と付け加える健二さんに、私は「え?」と思わず声を出してしまう。  と、そんな健二さんの両頬(りょうほほ)を、佳穂さんがムギュっと思い切り掴んでいらした。 「ちょっと健二。女性の歳をバラすとか、良い根性してるじゃない?」  うりゃうりゃ!と言いながら掴んだほっぺをギューッと引っ張っておられる佳穂さんの、見た目との迫力(ギャップ)気圧(けお)されて、私は思わず一歩たじろいだ。  そんな私の肩を、後ろから修太郎さんがそっと抱きとめてくださって。 「……修、太郎さん……」  そっと小声でお名前をお呼びすれば、肩にかかった手にほんの少し力がこめられる。
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