16.佳穂さん

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 そこで、ウェイターさんが飲み物と前菜を持ってきてくださる。  修太郎(しゅうたろう)さんと健二(けんじ)さんは各々お車でいらしているということで、ガス入りのミネラルウォーターを頼まれて、私もお酒は懲り懲りなので、お二人と同じものにさせていただいた。  佳穂(かほ)さんは、「えー? みんな飲まないの?」と言いながら、一人だけしっかりシードルを頼んでいらした。  「ホントはビールが飲みたいんだけどね」とウィンクなさるのがとても好印象で。  (佳穂さんは私みたいにお酒で失敗なさることはないんだろうなぁ)と(うらや)ましくすら思ってしまった。  各々の前に飲み物と前菜――サーモンのマリネ――が置かれる。  みんなでグラスを持って、乾杯をして……。  私はそのあと一人手を合わせていただきます、と小声でつぶやいた。修太郎さんが、それにあわせていただきます、をしてくださったのが何だかすごく嬉しくて。  いただきますをしたあと、緊張からか喉が渇いてしまって、もう一口だけ炭酸水を口に含んでからグラスをテーブルに戻したら、 「ね、日織(ひおり)ちゃんは私のこと、どんな存在だと思ってる?」  健二と幼なじみだということはさっき話したわよね、と佳穂さんが尋ねていらした。  私は彼女からの突然の質問に、グラスから手を放せないまま、動きを止める。  どんな……の中にはこの面子(めんつ)で集まるこの場へ、どうして佳穂さん(ご自身)が同席なさっておられるのか?という意味も含まれているんだと思った。
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