16.佳穂さん

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「兄さんは日織(ひおり)さん一筋でしたから」  私たちの様子をご覧になられていた健二さんが、意味深な笑みを浮かべて口を開かれた。 「ずっと?」  そういえば今までも要所要所で「ずっと」と言われ続けていた気がする。  そこまで深く考えてこなかったけれど、ずっと、ってどのくらいの期間なのかな?  私が修太郎さんと初めて出会ったのは、市役所に勤め始めた四月からだから……実質、まだ二ヶ月余り。  ずっとって…出会ってからの期間のことを指すんでいいのかな?  以前修太郎さんに「日織さん以外の女性を自分のそばに置くことなど、貴女と出会った日からずっと、一度も考えたことはありません」と言われたことがある。  あれにしても、たかだか一月(ひとつき)余りの時間を指すには不自然な言い回しだったような気が。  どう取るのが正解……?  パンをお皿の上で一口大に千切って食べようとしていた私は、思わずその手を止めて健二さんを見つめた。 「兄さん、もしかして……まだ話してないんですか?」  私の視線を受けた健二さんが、修太郎(しゅうたろう)さんに視線を流されてから、彼の反応をご覧になられて「マジか」とおっしゃった。 「てっきりもう話してるんだと思ってましたよ」  呆れ顔で言いいながら、鴨肉を一切れ口に運ばれる。  それを飲み込んでから、炭酸水で口を潤されると、健二さんは私をじっと見つめていらした。
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