17.あの時の彼

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 修太郎(しゅうたろう)さんの言葉に、私は固まってしまう。 (幼い私に、修太郎さんが絵本を読み聞かせてくださった……?)  そこでふと、断片的に時折フラッシュバックする、穏やかなお声のお兄さんを思い出す。  私が本好き――ひいては夢見がち――になったのは、その人の影響だった。  過日、彼が読んでくれたお話は、どれもとても楽しくて、キラキラと輝いて感じられた。  幼い私はそのお兄さんのお膝の上で、「次は?」「次は?」とワクワクしながら何冊もの本をせがんでは読んでいただいたのだ。  彼は、小さい子供のワガママだと聞き流すことなく、優しく微笑んで、乞われるままに何冊も何冊も読んでくださって。  4歳の私には、少し難しかったかもしれないイラストのないようなお話も、彼が読んでくださると、不思議と情景が目に浮かんで臨場感に(あふ)れた。  それは、多分読みながら時折私が座る(ひざ)を揺すってくださったり、私を高く抱き上げてくださったり……そういう工夫を凝らしていただけたからだと思う。
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