17.あの時の彼

6/16
前へ
/481ページ
次へ
「僕があの家をお役御免(やくごめん)になれたのは、健二が生まれてくれたからです」  天馬(てんま)氏と宮美(みやび)さんの間に男の子である健二さんが生まれ、父親や義母に反抗的だった修太郎さんは、やっと一人で暮らしておられた絢乃さん(お母様)のもとへ送り出してもらえることになったらしい。  修太郎さんは、まだ(とお)にも満たない幼い身で、実母(お母)さまと引き離されていらしたんだと思うと、胸がちくりと痛んだ。  私は紅茶のカップをソーサーに戻すと、修太郎さんをじっと見つめた。 「僕は母のもとに引き取られてすぐ、戸籍を神崎から抜いて、母の籍の塚田に入れてもらいました」  修太郎さんと健二さんがご兄弟なのに苗字が違っていらっしゃるのは……そういう経緯があったのだ、と思った。  生まれていらした九つ年下の弟さんを可愛いと思う一方で、修太郎さんは絢乃さん(お母様)(ないがし)ろになさったお父様のことをどうしても許すことが出来なかった、とおっしゃった。 「母と離婚してすぐに宮美さんと再婚した父を見て、僕は父親のことを汚い人間だと、そう思いました。一人の女性も幸せに出来ないような男が政治家だなんて笑わせる、と。今思えば男女のことなので、父が一方的に悪かったわけではないのかもしれない、とも思えるようにはなったんですけど」  そうおっしゃって淡く微笑まれる修太郎さんがとても寂しそうで……。  私は思わず修太郎さんの手を握った。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2871人が本棚に入れています
本棚に追加