17.あの時の彼

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日織(ひおり)さん。今のは……本心、でいらっしゃいますか?」  やがてポツリと呟かれたお声に、私は恐る恐るうなずいた。 「はい。……もちろんなのですっ」  首肯(しゅこう)しながら声に出してそう言ったら、修太郎さんが、今にも泣き出してしまいそうな、なんとも言えないお顔になられて。 「修太郎さん」  私は努めてにっこり笑うと、修太郎さんの目を見つめて、心を込めてお礼を言った。 「私を好きになってくださって本当に有難うございます! ぼんやりしていて抜けたところだらけで申し訳ないのですけれど……私、これからもずっとずっと修太郎さんのお傍にいさせて頂きたいのですっ。――あの、構わない……ですか?」  言葉を尽くして懸命にそう告げたら、修太郎さんはとても嬉しそうに笑っていらした。 「もちろんです! ――愛しい貴女をやっと捕まえられたんだ。嫌がられても離してあげられそうにありませんからそのつもりで。覚悟していらしてくださいね?」  言いながら、ギュッと手を握られて。  独占欲を隠そうとなさらない修太郎さんの強い瞳に、私の胸はドキドキと高鳴る。  本当はそのまま抱きしめていただきたかったけれど、さすがに何度も何度もお食事中に席を立つのはマナー違反だし、佳穂(かほ)さんと健二(けんじ)さんの前だから。  私は修太郎さんに近づきたい衝動をぐっと(おさ)えると、私の右手を包み込む彼の大きな手の上に、自らの左手を重ねてギュッと握り返した。
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