17.あの時の彼

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 健二(けんじ)さんは書類上ではちゃんと本名の「神崎(かんざき)健二」で登録なさっていらっしゃるらしい。  けれど、修太郎(しゅうたろう)さんに頼んで都市計画課では偽名でお仕事されることになさったそうで。 「書類関連は俺のも日織(ひおり)さんのも原本は施設管理公社が持ってましたので、小細工するにはある意味好都合だったんです」  そういえば、中本さんが私と高橋さん――実際は健二さんだけれど――は他の臨時職員の方々と違って、市の(じか)雇いではなく、施設管理公社から市へ派遣された形になっている臨職(りんしょく)だとおっしゃっていらした。  その話を中本さんからお聞きしたときは、偶然だと思っていたけれど、私たち二人が神崎天馬(てんま)氏の采配(さいはい)で配属されたのだとしたら、必然的な一致だったのだと思い至る。  考えてみたら、布石はあちこちにあったのです!と思ったら……私は自分の鈍さがほとほと嫌になった。 「公社(そこ)から市役所へ回ってきた書類は兄さんに行くように細工してもらってたんで、日織さんに俺だとバレないよう、最初から都市計(としけい)には高橋(たかはし)(きよし)として入り込みました。だから兄さん以外はみんな、俺のことを高橋だと信じています」  何でも“高橋清”というお名前は、同姓同名ランキング、上位から数えて四位のお名前なんだとか。考えるのが面倒だったのでテキトーにつけました!と笑う健二さんを見て、何となくモヤモヤとしてしまう。  ずっと高橋さんという人格を信じて、お仲間だと慕っていた私の身にもなって欲しいな、とか思ってしまって。  偽名でした、とかそんな人間は元からいませんでした、とか言われても何となく釈然としなかった。 「日織さんも課長じゃなくて兄さんに課のことを色々と教わったでしょう? あれもそういう経緯からです」  私の気持ちを知ってか知らずか、あっけらかんとそうおっしゃる健二さんに、私は悲しい気持ちでふうっとひとつ、溜め息を付いた。  全ては修太郎さんのため、と思えば許せる気もしたけれど……でも、でも……。  そんな思いがぐるぐると渦巻いてしまう。
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