19.触れてみても構いませんか?*

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「……()(おり)さん、……すみ、ませんっ」  修太郎(しゅうたろう)さんが荒い息の合間、途切れ途切れに謝罪なさるのへ、私は思わず思い切り首を振って「よ、呼び捨て、嬉しかったのですっ。――すごくドキドキしてしまいましたっ」と必死にお伝えした。  修太郎さんは私の言葉に瞳を見開いて驚かれると、私の手をそっとご自身から放された。  そうして私の手をティッシュを何枚も使って丁寧に拭ってくださいながら、「いや、そこではなく……」と恥ずかしそうにおっしゃると、「その、僕だけが達してしまったので……」と申し訳なさそうにうつむかれた。  私は修太郎さんの言葉に、初めて彼の謝罪の真意を知って、途端ドギマギしてしまう。  ひゃー。言われてみれば私、手が汚れてしまっているのですっ。……それに……車内にも先ほどまではなかった青臭いにおいが……。  筍の皮とか……栗の花とか……そういうのに似たにおい。  ってこれがもしかして……あのっ……。 「わ、私っ、き、気付かなくてっ、ごめっ、なさいっ!」  何だかその瞬間をキャッチし損なってしまったことがすごくすごくもったいないと思ってしまって……。同時になんてはしたないことを考えているんだろう、と恥ずかしくなった。  それより何より、そのことに気付いて差し上げられなかったことが、修太郎さんを一人ぼっちにしてしまったみたいで申し訳なくて。 「あ、あの……修太郎さん」  いつのまにか着衣をきちんと整えていらっしゃる修太郎さんに、恐る恐る呼びかける。  修太郎さんはさっきからずっと私から微妙に目をそらしていらっしゃるけれど、私の声にほんの少し反応なさったのは分かった。  私は彼の(もも)にそっと触れると、 「私、ちゃんと修太郎さんを気持ちよく……できましたか?」  半ば必死になって、そう、お聞きした。
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