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「日織さん、貴女はとても聡明な女性です」
抜けているとかぼんやりしているとか評されたことはあったけれど、聡明だと言われたことはなかったので、一瞬何を言われているのか分からなくてキョトンとする。
ソウメイ……ソウメイ……と頭の中で繰り返してから、〝僧名〟?と変換して絶対違う、と頭を振る。
それなのに。途端、頭の中に何人ものお坊さんが向かい合わせになって座られて、お一人お一人が自己紹介を始めてしまわれた。
無意識に、名乗られたお名前を「英信さんに明慧さん……」と復唱してしまってから、自分の声に気付いて恥ずかしくなる。
「日織さん?」
一人で真っ赤になってあたふたする私に、修太郎さんが怪訝そうなお顔をなさってから、それでも優しく私の頭をポンポン、と撫でてくださった。
「庁舎でなければ抱きしめているところです。――日織さん、絶対今、変な想像してましたよね?」
そう仰ってから、「本当に貴女って人は……」とお顔を覆われて、吐息交じりにつぶやかれる。
「修、太郎さん?」
呆れさせてしまったのかと心配して覗き込んだら、涙目になっていらして。
肩を震わせながら必死に笑いを堪えておられた修太郎さんが、私と目があった瞬間、我慢しきれないようにふっと頬を緩められて「英信さん、明慧さんって……っ。もう、可愛いすぎて……いっそ、凶悪です……!」と大笑いしながら言われて。
修太郎さんの言葉をお聞きした途端、恥ずかしくて「復唱禁止ですっ」と抗議してみたものの、こんな風に子供のようなお顔で笑われる修太郎さんを拝見するのは初めてで……。
気がつくと、いつしか一緒になって笑ってしまっていた。
(修太郎さんこそ、笑顔が可愛すぎるのですっ! 胸がギュッと苦しくなるくらい大好きです!)
そう思ったけれど、悔しいので口に出して言うのはお預けにしておきます。
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