2868人が本棚に入れています
本棚に追加
/481ページ
「日織さん、これは一体どういう意味ですかな? 貴女は修太郎ではなく、健二の許婚だったはずだ」
天馬氏の声はあくまでも穏やかだ。
それなのに、なぜかとても威圧感があって、私はなかなか声を発することが出来なかった。
それなのに、気持ちばかりが焦ってしまう。
「……も、申し訳ありませんっ。私っ、その……修太郎さんとお仕事をさせていただくうちに……どんどん彼のことを好きになって……それで……離れたくないと思うようになりました」
怖い、という気持ちが、思わず初っ端に謝罪の言葉を紡がせてしまったことに、私は心の中で後悔する。
確かに許婚がいる身でありながら、他の男性に心惹かれて……あまつさえその方とお付き合いを始めてしまうなんて、あってはいけないことなのです。
でも……それでも修太郎さんとの関係を〝悪いもの〟だと自分自身で認めたみたいになってしまったのは、何だか釈然としなくて。
(修太郎さん、すみませんっ)
心の中でそっと謝ると、修太郎さんが私のほうを見て、大丈夫ですよ、と言ってくださっているみたいに、小さくうなずかれた。
そして――。
最初のコメントを投稿しよう!