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修太郎さんがおっしゃった通り、そこのショッピングモールには宝石を扱うお店が五つも入っていて、どのお店もキラキラしていて素敵でした。
特にそのうちの一店舗が、私好みの可愛らしいデザイン――小ぶりでガーリーな……例えばハートやリボンやお花などのモチーフ――が多くて、今、修太郎さんと二人でくだんのお店に立ち止まっています。
修太郎さんから「好きなのを選んでください」と言われたものの、彼が求めていらっしゃるのがどのようなタイプのリングか分からず、私は先ほどからファッションリングばかりを眺めて目を輝かせています。
そんな私に、修太郎さんが「気に入ったのがありましたか?」と聞いていらして。
「あ、いえ、その」
どれもこれも素敵に見えて、これと言ったものを決められていなかった私は、その言葉ににわかにソワソワしてしまう。
「日織さんはどんなデザインがお好きなんですか?」
今後の参考のために教えてください、と低音ボイスで耳元に囁かれた私は、思わずそちら側の耳を押さえてあわあわする。
一瞬にして耳がぶわりと熱くなったのを感じた。
「あ、あのっ、私、そそっかしいので……。その……あまり大振りなデザインだと引っ掛けてしまいそうで……それで」
ピンクゴールドの四葉のクローバーと、オープンハートが、ホワイトゴールドの台座にあしらわれた華奢なリングを指差したら、「あー、これは確かに日織さんらしいデザインですね」と微笑まれた。
でもこれ、形は可愛いんですけどお値段が可愛くないのです……。
値札に四万円を越える金額が入っているのを見て尻込みする私を見て、修太郎さんがクスクス笑う。
「日織さん、金額を気にしてはダメです。貴女が気に入ってくださらないと意味がありません」
言われて、「でも……」と口ごもる。
「あの、修太郎さん。私、やっぱり指輪は……。それよりも……イヤリングじゃ、ダメですか?」
あえて上目遣いで修太郎さんを見上げると、私は彼の眼鏡越しの瞳をじっと見つめた。
ちょっぴりズルいけれど、こうすると修太郎さんが大抵のことは折れてくださるのを、私は彼と過ごすうちに覚えました。
「どうしても?」
イヤリングなら、さっきオープンハートに桜があしらわれた可愛いのを、あちらのコーナーで見つけています。お値段も五千円しませんでしたし、絶対あれがいいと思うのです。
修太郎さんの問いかけに、もう一押しだと思った私は、声には出さずにコクンと首肯して、彼の服をちょん、と引っ張った。
「……実はさっき、あちらで凄く気に入ったのを見つけてあるのです。私、どうしてもそれが欲しいのです」
私の左手薬指に指輪を嵌めるのが今日の目的だと修太郎さんはおっしゃいました。
なのに、リングではなくイヤリングがいいですとごねる私を、彼は許してくださるでしょうか。
これは、ある種の賭けなのです。
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