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幼い時分から両親に、「お前には許婚がいる」と言われて育てられてきた私は、今の今まで健二さんのことを好きかどうかなんて考えたこともなかった。
親に決められた許婚なのだから、結婚しなければいけない。そう思っていたから。
「……分から、ない、のです。――実は……幼い頃に一度お会いしたことがあるだけの方なので……その、お顔も覚えていないの、です。お恥ずかしい話、好きかどうか以前の問題な気が……いたし、ます」
健二さんのことを好きかどうかと思いを巡らせた途端、何故か頭の中に塚田さんの笑顔が思い浮かんでしまって、思わず語尾が曖昧になる。
そんな私を見て、高橋さんが小さく吐息を落とした。
「俺、妹が二人いるって言ったじゃないですか。だから藤原さんのこともうちの妹らに重ね合わせて見ちゃうところがあるんですけど……いまどき親に言われたからって好きでもない相手と添い遂げる必要なんて微塵もないと思うんですよ。要らんお世話かもしれないですけど……相手だって貴女に会いに来ないってことはどういう気持ちか分かったもんじゃないと思いますし」
相手が、貴女に夢中というのならいざ知らず……と小声で付け加えられて、私は図星をさされた気がした。
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