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「注文していた指輪を受け取って、日織さんの可愛いお顔を見ていたらすぐにでも僕のものにしてしまいたくて……我慢できなくなってしまいました」
あのプロポーズは結構衝動的だったのです、と吐露なさる修太郎さんが愛しくて、私は両親の前だと言うのも忘れて、うっとりと彼のお顔に見入ってしまいました。
「修太郎さん、お茶でも飲んで帰られますか?」
お母様が、止まってしまった時間を動かすようにそう提案なさって、私はハッとする。
「いえ、今日のところはこれでお暇させていただきます。後日改めてご挨拶に伺いますので、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げて私から離れてしまわれる修太郎さんに、思わず手を伸ばして作業服の端を掴んでしまってから……私は自分が何をしようとしているのか分からなくなって照れてしまう。
「あ、あのっ。きょ、今日は送っていただいて……どうも有難うございました」
彼を引き止めたいという気持ちを振り払うようにそう言って手を離すと、顔を隠すように頭を下げる。
修太郎さんは、そんな私の頭をポンポン、と優しく撫でてくださった。
その感触に恐る恐る顔を上げると、ほんの少し距離を詰めていらした修太郎さんが、
「また明日、市役所でお会いしましょう。おやすみなさい」
とおっしゃってから、私にだけ聞こえるぐらいの低音声音で「……僕の日織さん」と付け加えていらした。
私はそのお声に耳まで真っ赤になって硬直してしまう。
「日織?」
お母様に声をかけられて、耳を押さえてビクッと一瞬身体を震わせてから、私は玄関を出て行かれた修太郎さんの背中に声をかける。
「お、おやすみなさいっ。――……修太郎さん」
彼のお名前を呼ぶ前に、心の中で小さく「私の」と修太郎さんを真似てみてから、その言葉の響きに心の中がほんわりと熱くなって照れてしまう。
修太郎さんは、まるで声にならなかった私の声が届いたみたいに立ち止まってこちらを振り返られると、すごくすごく幸せそうな笑顔を私に向けて、会釈していらっしゃいました。
修太郎さん、大好きなのですっ!
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