24.外泊のお誘い

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 私より一ヶ月ばかり早く臨職(りんしょく)を開始されていた「高橋さん」こと健二(けんじ)さんは、八月一杯で任期を終えられて都市計(ここ)からいなくなってしまわれます。  と言っても、元の通りお父様である天馬(てんま)さんの補佐に戻られるだけなので……実際にはお役所でお見かけすることは結構あるらしいのです。  でも、同じフロアからはいなくなってしまわれるわけですし、今までのように毎日顔を合わせることがなくなってしまうのは確かで。 「寂しくなります」  たまたまロビーで出会った際にそう申し上げたら、「親戚になるんだからそんな寂しがることもないでしょう?」とクスクス笑われてしまいました。  身内になったら、修太郎(しゅうたろう)さんが年に一回はご弟妹(きょうだい)の皆さんを伴うアルファード(彼の愛車)での旅行に、必ず引っ張り出されますよ?とニヤリとされる。  その時は嫌でも狭い車内で四六時中一緒です、と言われて、思わず「私がお邪魔しても大丈夫でしょうか?」とお聞きしたら、驚いた顔をされてしまいました。  次いで、当然のように「日織(ひおり)さんは俺の義姉(ねえ)さんになるんでしょう? 来ない方が有り得ないですよ」と言われてしまって。  〝義姉(ねえ)さん〟という言葉に私はピクンと反応しました。  そう言えば、前に高橋さんだと信じていた健二さんとお話しした折り、「なんだけど……妹は間に合ってるかなぁ」と言われたのを思い出しました。  私、修太郎さんと結婚したら……健二さんのお義姉(ねえ)さんなんですね。何だか凄く不思議な感じです。  私の方が彼より年下なので、そんなの無理!とあの時は思いましたが、健二さんはあの時にはすでにこうなる未来を思い描いておられたのかも知れません。  私は健二さん――高橋さん――と全くご縁が切れてしまうわけではないと知って、少しホッとしました。  やはりせっかく繋がったご縁は大切にしたいです。  私自身も九月末にはここを去らねばなりません。  そう思うと、なんだかその思いは日増しに強くなるようでした。
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