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「――修、太郎さん?」
きょとんとして彼のお顔を見上げたら、真っ赤になられた修太郎さんが、とても言い難そうに「日織さん……その、……む、胸が……」とつぶやいていらして。
「……むね?」
ぼんやりと修太郎さんのセリフを繰り返した後で、私は彼がおっしゃっている言葉の意味を理解して、
「わわわっ。す、すみませっ――!」
慌てて彼から離れました。
私、照れ隠しに修太郎さんに強くしがみ付く余り、気付かないうちに彼の腕に胸を押し当ててしまっていました……。
あーん。穴があったら入りたいのですっ。
二人で、何とも言えないこそばゆさに赤くなりながら、ぎくしゃくとした足取りで歩く羽目になってしまいました……。
本当に私、粗忽者で申し訳ないのです……。
***
市役所の正面玄関はもう閉まっていたので、私たちは裏手の夜間通用口――西側玄関――から庁舎の中へ入りました。
入るとすぐに守衛室があって、そこで立ち止まられた修太郎さんが、胸ポケットから一葉の書類を取り出されました。そうして私を守衛室横に置かれた机にいざなわれると、机上のペン立てからボールペンをとって、それとともに先の文書を手渡していらして。
「え? これ……」
用紙を広げて見て、私は驚いてしまいました。
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