2869人が本棚に入れています
本棚に追加
/481ページ
「婚姻届です。日織さんのご署名などと捺印があれば、提出できるようになっています」
言われて、手にした紙をまじまじと見つめると、証人欄に修太郎さんのお父様である「神崎天馬」氏のお名前と、「藤原日之進」という、私のお父様の自署が並んでいて――。
「……どうしても今日提出したくて……実は少し前から根回しさせていただいていました。……勝手にすみません」
私がフリーズしてしまったのを見て、修太郎さんが頭をさげていらっしゃいました。
どうしても、今日?
その言葉が気になって、私は修太郎さんを見つめました。
「あの、今日って……」
何か大切な日で、もしかしたら私だけそれを忘れてしまっているのでしょうか? だとしたら……まずいのです。
おろおろしながら修太郎さんのお返事を待つ私に、彼が少し申し訳なさそうなお顔をなさいました。
「今日は……僕と日織さんが初めて出会った日なんです。貴女が覚えていらっしゃらないのは当然です、お小さかったので。なので……今日にこだわるのは僕のワガママです。……その、気持ち悪くてすみません……」
修太郎さんのその言葉を聞いて、私は少しホッとしました。
それと同時に、本当に修太郎さんが私のことを大切に想って下さっているのがわかって。
「――凄く凄く嬉しいのですっ! 気持ち悪くなんて、ないのですっ!」
そのことに気が付いたら、今日を逃してはいけない、と思いました。
それなのに――。
最初のコメントを投稿しよう!