26.一線を越える覚悟

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「え?」  修太郎(しゅうたろう)さんのお言葉の意味をはかりかねてそう声に出したら、「そういうことを念頭に置かれてお風呂を済ませていらしたのでは?」と畳み掛けられました。  一線? そういうこと?  修太郎さんの言葉を頭の中で繰り返してから、やっとその意味に気付いた私は、顔から火が出そうになりました。  私、初めてを前にソワソワと(みそぎ)を済ませてきたと思われてるみたいですっ。 「――あ、あのっ。ち、違いますっ。こちらでお風呂をお借りするのが何だか恥ずかしいと思ってしまって……それで家で入っただけでっ……。だから私、修太郎さんと、その……し、しちゃうこととか考えたりしてお風呂に入ったわけではないのですっ」  多分、今の私、耳まで真っ赤です。  自宅で入浴を済ませようとした際、お母様が驚いたお顔をなさったのを思い出しました。  もしかしたらあの折のお母様も、今の修太郎さんと同じことを考えていらしたのでしょうか。 (お母様、誤解なのですっ。あーん。恥ずかしすぎるのですっ)  あの時に戻れるものなら、私、迷わずお風呂に入るの、やめておきます。 「……ねぇ、日織(ひおり)」  瞬間、修太郎さんが身に(まと)われた空気が変わったように感じました。  彼から低いお声で呼びかけられた途端、私の身体は金縛りにでもかかったように身動き出来なくなりました。 「――本気で、その気はないと?」  どこか抑揚(よくよう)を感じさせない修太郎さんの口調に、恐る恐る彼の方を見つめると、修太郎さんが私の横に(ひざまず)いていらして。 「僕の家に泊まりにいらしてるのに。そういうことを考えないなんて……有り得ませんよね? それとももしかして、あの約束をお忘れですか?」  すぐ真横から、耳に息のかかる距離で声を吹き込まれました。
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