27.あなたに、キスのその先を*

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「お、お風呂……ありがとうございました」  結局、例の薄化粧パウダーを鞄の中に忘れてしまって……ノーメイクのままリビングに戻ってこなくてはいけなくなりました。  出掛けに慌てて追加したので、ポーチの中に入れられていませんでした。  私、おバカさんなのです……。  お化粧なしが物凄く恥ずかしくて、私は顔を両手で隠すように覆いながら、そそくさと修太郎(しゅうたろう)さんの横を通過し――ようとして彼に捕まってしまいました。 「日織(ひおり)さん?」  グイッと腕を取られてソファに座る彼のすぐ横に引き倒されてしまい、 「どうして顔を隠していらっしゃるんですか?」  見下ろされるようにして、いきなり核心を突かれてしまいましたっ。  ソファに倒れ込んだ拍子に、手にしていた荷物が床に散らばったのですが、修太郎さんはお構いなしで。  真正面から私の目をじっと見つめていらっしゃる修太郎さんに、「あの……よ、呼び捨てはやめられたのですね」と目を()らしつつ別のことを言って誤魔化(ごまか)してみます。  修太郎さんの視線が余りに痛くて、目線だけでも彼から逃げようと試みました。 「貴女にはと言うときに呼び捨てする方が効果がありそうですので、そうすることにしただけですよ? ――それでね、、僕はそんなことではぐらかされたりする気はないんですが? 何で顔、隠してるんですか?」  や、やはり無理……ですよ、ね……。  今が正にと言うときだという風に「日織」と低い声で呼びかけられた私は、修太郎さんの思惑通りまんまとビクッと身体を震わせて、覚悟を決めました。正直にお話します……。 「あの……実は……私、その、お風呂にお、お化粧を持っていくのを忘れてしまいまして……それで……今、すっぴんなので」  一生懸命事情をお話したので、開放していただけるかな?と期待したのですが……。
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