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「そういえば――」
修太郎さんが、髪をセットなさりながら、洗面所からヒョコッと顔を覗けられて、
「――さっき佳穂と少し話しました」
そうおっしゃいました。
「……あ。お電話、通じたんですねっ」
そのお声に、リビングへ向かおうとしていた足を止めてそうお返ししたら、「ええ。――あと十分くらいで着くという一方的な連絡でしたけどね」と返ってきます。
修太郎さんの不機嫌そうな口ぶりから察するに、彼からのコールが通じたのではなく、また佳穂さんから掛かっていらした雰囲気です。
それにしても――十分! これは急いでメイクを頑張っても間に合わないかもしれませんっ。
私がソワソワし始めたのを、ジェスチャーで大丈夫ですよ、と制していらっしゃると、修太郎さんが話を続けてくださいます。
「いきなり来ると言われても、日織さんも僕も朝食がまだだから迷惑だと話して、とりあえず近くのファミレスで待っていてもらうことになりました」
修太郎さんがにっこり笑ってそう言ってくださって、私は正直ホッとします。
佳穂さんに迷惑だと告げていらしたのは感心できませんが、ファミリーレストランなら佳穂さんも珈琲などを飲まれながら時間を潰すことができると思います。
だからといって余りお待たせするわけにはいきませんが、とりあえずメイクの途中で「お久しぶりですっ」となる事態だけは避けられそうです。
「ありがとうございますっ。た、助かりますっ」
素直にそう申し上げたら、修太郎さんが嬉しそうに微笑まれました。
「お役に立てて光栄です」
修太郎さんは、私にとって、やはり最高の男性です!
何も言わなくてもピンチを察して助けてくださるところとか……かっこよすぎなのですっ。
「なるべく早く仕度、整えますね」
ペコリと頭を下げると、私は急いでリビングに戻りました。
メイクと髪の毛のセット、超特急で頑張るのですっ!
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