29.言われてみれば、そうでした!

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「……納得……かどうかはよく分からないのですが……あの、た、例えば……その……イヤではなかった、って言うのじゃ……ダメでしょうか?」  恐る恐るそうお答えしたら、佳穂(かほ)さんがバンッとテーブルを叩いていらして。  私は今度こそビクッと飛び上がりました。 「そこよ! それがダメなのよ、日織(ひおり)ちゃん! 分かる!?」  突然響いた大きな音に、周りから視線が集まってしまって――。 「お、おい、佳穂。お前ちょっと落ち着けって」  健二(けんじ)さんが慌てて佳穂さんをなだめます。  修太郎(しゅうたろう)さんが、佳穂さんの剣幕に押されて縮こまる私の肩に腕を回すと、ギュッと抱き寄せてくださいました。 「佳穂、お前いい加減に――」  修太郎さんが怒りを抑えた声音で佳穂さんを牽制(けんせい)しようとなさったら、健二さんがまるで佳穂さんを(かば)うようにそれを制していらして、逆に修太郎さんを睨まれました。 「兄さんはちょっと黙っててください。俺も佳穂もまずは日織さんの気持ちを確認したいんです。――兄さんとの話はその後です」  静かですが、思わず修太郎さんが口をつぐんでしまう程度には、威圧感のある声音でした。  ふと、お二人のお父様でいらっしゃる天馬(てんま)氏を彷彿(ほうふつ)とさせられて、私は息を呑みました。 「――日織さん、貴女が兄さんのことを好きなのは俺も佳穂も分かっています。二人が相思相愛なのは誰の目にも明らかでしたし、実際貴女たちは婚約なさってました。だから俺たちも、、二人は結婚するんだろうな、とは思ってましたよ。でもね――」
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