29.言われてみれば、そうでした!

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 私は……修太郎(しゅうたろう)さんのおっしゃられるがままに署名捺印など済ませてしまいましたが、それは普通ではないこと……だったのでしょうか?  そもそも……私はあの時、びっくりしただけで、本当に何で?って思わな……かった?  頭が混乱して、よく思い出せません。  ただ、ひとつだけよく覚えていることがあるとすれば――。  あの時、修太郎さんが、その日は私と彼が始めて出会った記念日だから、とおっしゃって。  私はそれに舞い上がってしまったのです……!  それで、入籍がどういうものなのか、しっかり考えずに動いてしまった気がします。 「日織(ひおり)さん、仮にも入籍ですよ? 法的に貴女の戸籍が変わってしまう大きな手続きです。その事実は一生貴女に付きまとうって分かりますよね? それを……いくら好きな男が相手だからって……言われるがままに処理してしまうのは……よくないことだと分からないほど、貴女は愚かな人じゃないと思ってたんですが?」  ――俺の買いかぶり過ぎでしたか?と小さく付け加えていらした健二(けんじ)さんに、胸の奥がズキン、としました。  健二さんに噛み砕いて説明していただくまでもなく、そうなのだと分かります。  いくら鈍い私でも……あの時、どうしてもう少し修太郎(しゅうたろう)さんに説明を求めなかったのかと考えると、自分で自分が嫌になりました。  相談してもらえなかったことを悲しく思えなかったのが、不思議で堪りません。  私、知らず知らずのうちにまた、他者に依存してしまっていたのでしょうか。
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