5.健二さんとの電話

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 私はお父様から受話器を受け取ると、すぅっと深く深呼吸をしてから、受話口を耳に当てて保留を解除する。 「もしもし……?」  恐る恐る呼びかけたら、緊張のためか声が少し震えてしまった。 『こんばんは、日織(ひおり)さん。もしかして緊張していますか?』  受話器越しに、ふっと笑う声が聞こえてくる。 「も、物心ついてから健二(けんじ)さんとちゃんとお話するの、初めてなので……その、き、緊張しています。すみ、ません」  しどろもどろに言えば、やはりクスクスと笑う声が聞こえてくる。  私同様、こんな風にお話するのは初めてのはずなのに、健二さんはやけに落ち着いておられた。  それが、何だかとても悔しくて――。 (私が世間知らずで、彼との経験値に差があり過ぎるのが敗因に違いないのですっ)  たぶん、私が温室育ちで、彼とは経験値に差があり過ぎるんだろう。  健二さんが、外に出て世間にもまれる事を、私との結婚の条件としたのも、当たり前だと思った。
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